2026年2月22日は、ミラノ・コルティナ五輪の閉会式でです。
会場となる「アレーナ・ディ・ヴェローナ」には、致命的な欠陥があります。
屋根がありません。
真冬の夜、もし雪や雨が降ったらどうするのか?最新のスタジアムであれば開閉式の屋根が当たり前ですが、ここは2000年前の遺跡です。
実は、大会に向けて屋根をつける計画も真剣に検討されていました。しかし、結局計画は中止されました。
なぜ、不便なままであることを選んだのでしょうか。 背景には、文化大国の矜持と覚悟がありました。
では、閉会式ではどのような演出が行われるのか?かつて剣闘士が戦った『修羅の歴史』と、最新の演出計画についてはこちらをご覧ください。
幻になった「1350万ユーロの屋根」
「アレーナ・ディ・ヴェローナ」が閉会式の会場に決まってから、ヴェローナ市は可動式の屋根を設置する国際コンペを開催しました。
採用されたドイツの建築事務所の案は、扇子のようにワイヤーと幕が広がる、非常に優美なデザインでした。
予算は約1,350万ユーロ(約20億円)。技術的にも実現可能で、雨天時のオペラ中止による損失も防げるという、将来、レガシーになるプロジェクトでした。

しかし、イタリア文化財保護局はこの案を却下します。理由は、
「古代の景観を変えてはならない」
2000年前から続く、空へと抜ける開放感や、石積みのシルエット。その景観を守ることは、五輪の成功や観客の快適さ以上に重要だと判断したわけです。
便利な現代建築にするよりも、たとえ不便でも古代遺跡の価値を守る。それがイタリアの結論でした。
オペラの流儀は「雨が降ったら、濡れればいい」
では、実際に雨が降った場合、現地ではどのように対応するのでしょうか。
アレーナで毎年夏に行われるオペラ・フェスティバルには、長年の伝統があります。それは、「雨が降ったら、止むまで待つ」あるいは「中止する」という潔いルールです。
演奏中の雨は楽器を傷めるため、即、中断です。観客もそれを承知で、雨合羽を着て静かに再開を待ちます。

不親切といえば不親切ですが、そこには独特の美意識も垣間見えます。 雨が上がると、澄んだ空の下、濡れた石のベンチが月の光を反射して輝きます。それは、屋根のある劇場では決して味わえない、「震えるほど美しい瞬間」だとも言われています。
五輪の閉会式も、このオペラの流儀で行われます。
もちろん要人向けの屋根付き席は用意されますが、選手や多くの観客は、古代ローマ人と同じように、自然の空の下で式典を見守ることになります。
現地流の観戦スタイルは『ポンチョ』です。雨の野外フェスやスポーツ観戦にも使える、機能的な一着を。
マリア・カラスが愛した「奇跡の音響」
屋根がないことの意味が、もう一つあります。それは「音」です。
アレーナ・ディ・ヴェローナは、マイクなしで2万人の観客に歌声が届くと言われる、奇跡的な音響効果を持っています。

1947年、伝説の歌姫マリア・カラスがここから世界へ羽ばたいたように、楕円形の石壁が音を保ち、夜空へと響かせる独特の音色は、屋根をつけると失われるかもしれません。
閉会式では、聖火が消える静寂の瞬間に、この会場ならではの「生の響き」が世界中に届けられます。
「屋根がない」から「空がある」へ
閉会式当日、もし晴れれば、古代遺跡と最新技術が融合した、世界で最も美しいフィナーレが見られます。雨が降ったとしても、それはそれで歴史に残るドラマチックな光景になります。
「屋根がない」ではなく、「空がある」に発想を転換する。
便利さを追い求める現代において、イタリアはあえて不便さを選び、歴史と自然への敬意を示しました。それを重ね合わせながら閉会式を見れば、また違った見え方ができるでしょう。
ここ「アレーナ・ディ・ヴェローナ」は、パラリンピックの開会式の会場にもなっています。屋根だけではなく、バリアフリー化も大問題になりました。どのように解決したのか、こちらの記事で確認してください。




