【2030・2034年】アルプス・ソルトレイクシティー冬季オリンピック2大会同時決定の全貌

歴代開催地アーカイブ
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2024年7月24日、第33回夏季オリンピック開幕を目前に控えたパリで、第142次IOC総会が開催されました。

この日の最大の焦点は、2030年と2034年の冬季オリンピック開催地を同時に選出する「ダブル・アワード」でした。

気候変動による候補地の枯渇や開催コストの増大という課題に直面するIOCは、信頼に足る開催地を早く確保する戦略に舵を切り、この日、2030年大会をフランス・アルプスで、2034年大会をソルトレイクシティー・ユタで実施することを決定しました。

開催地発表の瞬間

IOC総会で電子投票形式の信任投票が締め切られると、ただちにトーマス・バッハ会長が、2030年大会のフランス・アルプスでの開催をフランス語で宣言しました。(動画では1:08:12より発表)

ここには、”sous réserve des conditions fixées par la session du CIO”(IOC総会によって定められた条件に基づき)という異例の文言が含まれています。

“Chers collègues et amis, chers amis français, sous réserve des conditions fixées par la session du CIO, le Comité International Olympique a l’honneur d’annoncer que les 26èmes Jeux Olympiques d’hiver 2030 sont attribués aux Alpes françaises.”

フランス・アルプス大会開催決定後、総会の議題は2034年大会の開催地決定に移ります。

電子投票終了後、トーマス・バッハ会長が、2034年大会のソルトレイクシティー・ユタでの開催を宣言しました。(動画では3:09:00より発表)

“The International Olympic Committee has the honor to announce that the XXVII Olympic Winter Games 2034 are awarded to Salt Lake City-Utah!”

冬季五輪の危機 ー 雪とともに消える開催地

今、冬季オリンピックは存続の危機を迎えています。

IOCが出した「気候変動と冬季オリンピックの未来」という調査報告書では、2050年までに、過去の開催地の多くが、安定して雪上競技を開催できる気象条件を満たさなくなると予測しています。

加えて、オリンピックの開催経費は膨らむ一方で、住民の反対で招致を断念するケースが続出。

冬季オリンピックの開催都市を選ぶ余地が、急速に狭くなっています。

選考の柔軟化で立ち向かうIOC

IOCは、この危機を打破するため、開催地選考プロセスの刷新に迫られました。

  • 2032年ブリスベン大会から採用された「優先候補地」方式を継続
  • 新たな施設建設を控え、100%既存施設を活用する方法を強く推奨する
  • 冬季については、気候が適し、運営能力が高い、信頼できる開催地を10年先まで先に選び、気候変動対策を検討する時間を稼ぐ

こうして、アルプス・フランスと、ソルトレイクシティー・ユタが選ばれました。

しかし、両都市とも、条件付きで開催を認めるという異例の決定になりました。

冬季オリンピックの危機とIOCの生き残り戦略(Web記事を材料にAIで作成)
冬季オリンピックの危機とIOCの生き残り戦略(Web記事を材料にAIで作成)

「財政保証条件付き」のフランス・アルプス決定

2030年フランス・アルプス大会の決定は、「条件付き」という異例の形式となりました。

財政保証を遅らせたフランス政界の混乱

IOC総会は、フランス・アルプスに対して、大会費用について以下の条件を課しました。

  • 2024年10月1日までに、フランス首相による政府保証を提出すること。
  • 2025年3月1日までに、フランス議会によってこの保証が批准されること。

立候補地による費用の保証は開催に不可欠なもので、通常は投票の前に提出します。しかし、当時のフランスは政局が混乱しており、保証ができていませんでした。

マクロン大統領の誓い

マクロン大統領は自らIOC総会に登壇し、必ず条件を履行するとメッセージを送りました。

  • フランスが国家としてフランス・アルプス大会にコミットメントすることを約束
  • 次期首相が保証を国の優先事項とするよう全力を尽くすと約束
  • 7年前のパリ大会決定の際、フランスは同じ約束をして実行したことを強調

大統領自らの保証と「パリ」の実績によって、開催を不安視したIOC委員をようやく信任へと動かすことができたのです。

政治介入に揺れたソルトレイクシティー・ユタ

2002年大会の贈収賄スキャンダルを背負っていたソルトレークシティーにとって、2034年大会の決定は、32年越しの名誉挽回の場となりました。

招致委員会は、すべての施設を既存施設でまかなう提案で、IOCから高い評価を得ました。

スポーツ界とアメリカ政府の対立

しかし、IOC総会の直前、新たな対立が始まります。

話は2021年東京大会に遡ります。このとき、中国選手の一部のドーピング検査が陽性となっていました。

世界アンチ・ドーピング機構(WADA)はこれを、汚染された食品によるものとしましたが、アメリカアンチ・ドーピング機構は隠蔽と非難し、アメリカ司法省がWADAを捜査するという事態に発展します。

「取消条項」でアメリカ政府を牽制したIOC

スポーツの世界にアメリカ政府が介入する姿勢を見せる事態をIOCは重く受け止めます。IOCがは、ソルトレイクシティー・ユタとの契約に、異例の「取消条項」を入れました 。

「WADAの最高権威が損なわれたり、世界反ドーピング規程の適用が妨げられたりした場合、IOCは一方的に開催権を取り消すことができる」

これは、招致側にとって非常に厳しい条件でしたが、ソルトレイクシティー・ユタはこれを受け入れ、開催が決定されました 。

冬季五輪の生き残りを懸けて

IOCは、2034年大会の開催地決定を前倒しすることで、冬季オリンピック存続に向けた最後の検討期間を買った形になりました。

今後、「開催地持ち回り制」「開催時期の変更」「分散開催の定着」など、さまざまな対策が検討され、2038年以降の冬季オリンピックが大きく様変わりするかもしれません。

投票結果

IOC総会では、優先候補地に対する信任投票が行われました。

圧倒的多数の賛成だったとはいえ、10票を超える反対・棄権が発生しました。IOC委員の中に、財政保証への懸念・政府の介入への反発があったことがうかがえる結果となりました。

開催年候補地賛成反対棄権
2030年フランス・アルプス8447
2034年ソルトレークシティー・ユタ8366
参考資料一覧
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